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「オンライン授業が教育現場を救う」という文科省の幻想

第35回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■必要なのは形ではなく効率的で効果的な授業体制

 ただし、保護者からは「教師との双方向オンライン授業」が望ましいとの声がもっとも多く、全体の5割を超えていた。一方的な講義型の授業ではなく、求められているのは「双方向」のようなのだ。

 しかし同調査によれば、「オンライン授業で双方向授業を実現している」のは小学生で3.7%、中高生でも6.8%でしかなかった。求められているような双方向によるオンライン授業は、ほぼ行われていない現実なのだ。
 この調査が実施されたのは4月末から5月初めのことで、それ以降、急激に双方向によるオンラインが普及しているとは考えにくい。

 テレビとは違い、パソコンを使用することで「双方向の授業」は技術的に可能となる。だからパソコンを使ってのオンライン授業となると、「双方向」という思い込みがあるのかもしれない。
 学校での授業は、教員1人に対し生徒は40人ほどで行われる。全員が教室に集まって行われる対面授業でも、果たして、本当の意味での双方向授業が実現できているかどうかは疑わしい。生徒40人の理解度はバラバラで、その一人ひとりと1人の教員が双方向でやろうとしたら、とても授業時間内では間に合わない。
 授業でやるべきことは決められているので、教員は理解できていない子がいても置き去りにして授業を進めざるをえない。「多くの生徒を一緒にしてやる授業では仕方ない」と、授業を理解できない子がクラスにいることを認める声は、多くの教員から聞こえてくる。

「教師との双方向オンライン授業」を望む保護者が過半数を占めているのは、対面での授業で起きている問題、つまり「置き去りにされている子がいる問題」が解消されることを期待してのことかもしれない。オンライン授業では、モニターに映しだされる教員の視線は我が子「だけ」に向いているように見える。我が子との「双方向」が実現しているように「錯覚」してしまうのかもしれない。

 しかし、教員のモニターに映っているのは40人の生徒である。映っているだけで、教員の視野に入っているのは数人の子どもだけかもしれない。生徒からの反応を聞けるといっても、40人全員というわけにはいかないだろう。
 つまり、教室での対面式の授業と変わりがない。授業についてこれない子がいても、一人ひとりに構っていられないのも教室と同じである。教室の授業と同じく、「置き去りにされる子どもたち」が存在している。問題は解決しないのだ。

 本当の意味での「双方向」は、オンライン授業だから実現できるのではない。教室で実現できていないものが、オンラインになったから実現できるというわけではない
 双方向を可能にするには、1人の教員の目の届く範囲内の生徒数にして、授業内容も丁寧に進められるものでなければならないはずだ。それが教室で実現されれば、そのままオンラインでも実現できるだろう。

 政府・文科省が急ぐ「1人1台」を実現したところで、双方向の授業は実現しない。むしろ、混乱を招きかねない。
 求められているのは端末ではなく、本来の意味での双方向授業である。それは対面式の授業でも同じことであり、大きな課題となっている。

 その課題を直視して解決する方法を模索することなく、いたずらにオンライン授業と騒ぎ立てるのは本質を見失っていることにしかならない。本質的な問題を無視して「1人1台」に向かっても、労力とカネの無駄遣いになりかねない。
 必要なことは、「置き去りにされる子どもたち」のいない授業づくりである。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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